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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1775号 判決

控訴人(反訴被告) 甲野春子

右訴訟代理人弁護士 竹下甫

同 小山稔

右訴訟復代理人弁護士 鮎京眞知子

被控訴人(反訴原告) 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 関根栄郷

同 藤村義徳

同 嶋倉釮夫

被控訴人 甲野二郎

〈ほか二名〉

主文

一  控訴人(反訴被告)の本件控訴を棄却する。

二  控訴人(反訴被告)は被控訴人(反訴原告)甲野一郎に対し、

1  別紙第一物件目録記載(一)、(三)ないし(一四)、(一六)ないし(三三)の不動産及び別紙第二物件目録記載(一)ないし(一〇)、(二二)の不動産につき、甲府地方法務局吉田出張所昭和四九年一月九日受付第一五八号をもってされた所有権移転登記を、昭和四八年一二月五日相続を原因とし別紙共有者目録記載の五名の持分の割合を各五分の一とする移転登記に、それぞれ更正登記手続をせよ。

2  別紙第二物件目録記載(二)ないし(二〇)の不動産につき、前記出張所昭和四九年一月一七日受付第二〇三号をもってされた所有権移転登記を、昭和四八年一二月五日相続を原因とし別紙共有者目録記載の五名の持分の割合を各五分の一とする移転登記に、それぞれ更正登記手続をせよ。

3  別紙第二物件目録記載(二一)の不動産につき、前記出張所昭和四九年一月九日受付第一五九号をもってされた所有権保存登記を、真正な登記名義の回復を原因とし別紙共有者目録記載の五名の持分の割合を各五分の一とする所有権保存登記に、更正登記手続をせよ。

三  控訴費用及び反訴費用は控訴人(反訴被告)の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(一)  控訴人(反訴被告)(以下、控訴人という。)

(本訴につき)

1 原判決を取消す。

2 被控訴人(反訴原告)(以下、被控訴人という。)らは控訴人のために、別紙第一物件目録記載(一)ないし(四一)の不動産につき、山梨県知事に対し亡甲野太郎(以下、亡太郎という。)の死因贈与に基づく所有権移転のための農地法三条による許可申請手続をせよ。

3 控訴人が原判決別紙第二物件目録記載(一)ないし(二二)の不動産につき所有権を有することを確認する。

4 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

(反訴につき)

1 本件反訴を却下する。

2 反訴費用は被控訴人甲野一郎の負担とする。

(二)  被控訴人ら

(本訴につき)

主文第一項と同旨。

(三)  被控訴人甲野一郎

(反訴につき)

主文第二項と同旨。

反訴費用は控訴人の負担とする。

二  主張

次に付加するほかは、原判決事実摘示の「第二 当事者の主張」及び別紙第一、第二各物件目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  被控訴人太郎の反訴請求原因

1  別紙第一物件目録記載(一)、(三)ないし(一四)、(一六)ないし(三三)の不動産及び別紙第二物件目録記載(一)ないし(二二)の不動産(右不動産全部を以下、反訴不動産という。)はいずれも亡太郎の所有であったが、亡太郎は昭和四八年一二月五日死亡し、別紙共有者目録記載の五名が共同相続人として持分それぞれ五分の一の割合で相続取得した。

2  しかるに、控訴人は亡太郎の公正証書遺言による遺贈を理由として、(1)第一物件目録記載(一)、(三)ないし(一四)、(一六)ないし(三三)の不動産、別紙第二物件目録記載(一)ないし(一〇)、(二二)の不動産につき、甲府地方法務局吉田出張所昭和四九年受付第一五八号・昭和四八年一二月五日相続を原因とする所有権移転登記を、(2)別紙第二物件目録記載(二)ないし(二〇)の不動産につき、前記出張所昭和四九年一月一七日受付第二〇三号・前同相続を原因とする所有権移転登記を、(3)別紙第二物件目録記載(二一)の不動産につき、前記出張所昭和四九年一月九日受付第一五九号・所有権保存登記をそれぞれ経由している。

3  よって、被控訴人一郎は控訴人に対して、右各登記を、昭和四八年一二月五日相続を原因とする別紙共有者目録記載の五名の持分の割合を各五分の一とする更正登記手続をすることを求める。

(二)  反訴に対する控訴人の本案前の抗弁

控訴人は被控訴人一郎の当審における本件反訴提起につき同意しない。よって、本件反訴は民訴法三八二条一項により却下されるべきである。

なお、本件反訴は控訴人の審級の利益を奪うものである。すなわち、控訴人と被控訴人一郎、同夏子、同秋子との間には、右公正証書による遺言が無効であることを確認する旨の別件遺言無効確認請求事件の確定判決が存するが、これは控訴人が本件反訴不動産につき、単独で所有権を取得したことを無効と確認するにとどまり、別紙共有者目録記載の五名が反訴不動産につき持分各五分の一の割合で相続取得したことについてまで既判力をもつものではない。したがって、右確定判決の存在は、本件反訴について控訴人の抗弁の一つが排斥されるにすぎない。控訴人は本件反訴不動産につき、二〇年以上にわたり亡太郎の農業経営に協力従事し、同人の療養看護に努めることにより、その維持、増加に貢献したから、右寄与分のあることを主張し得るところ、控訴人は右主張につき審級の利益を奪われるいわれはない。

(三)  本案前の抗弁に対する被控訴人の反論

別件遺言無効確認請求事件の確定判決は、控訴人が本件反訴不動産につき、亡太郎の右公正証書遺言による遺贈を原因として、単独で所有権を取得したことを無効と確認するものであり、本件反訴はこれを原因とするものであるから、控訴人に対し審級の利益を奪うものではない。したがって、本件反訴提起については、控訴人の同意を要しない。

三  証拠《省略》

理由

一  控訴人の本訴請求について

(一)  亡太郎が別紙第一物件目録記載(一)ないし(四一)の不動産及び別紙第二物件目録記載(一)ないし(二二)の不動産(以下、本件不動産という。)を所有していたことは、控訴人と被控訴人一郎、同秋子との間には争いがなく、控訴人と被控訴人二郎、同夏子との間においては、《証拠省略》により認められる。

請求原因2の事実は当事者間に争いがない。同3の事実のうち重森公証人の昭和四八年一二月三日作成にかかる亡太郎の公正証書遺言が存在することは、控訴人と被控訴人一郎、同二郎、同秋子との間には争いがなく、控訴人と被控訴人夏子との間においては《証拠省略》の存在によって認められる。

(二)  控訴人は、昭和四八年一二月三日重森公証人により遺言公正証書が作成された際、亡太郎は重森公証人に対し、亡太郎が死亡した場合には同人所有にかかる不動産全部を控訴人に贈与する旨述べ、これを聞いた控訴人が亡太郎に代わって同人の実印を押捺したから、これにより亡太郎と控訴人とは本件不動産につき死因贈与契約を締結したと主張し、また、控訴人は、亡太郎が同年一二月四日朝控訴人に対し「あれ(右遺言公正証書)はよくできたか。」と述べたのに対し控訴人が「おじいさん、ありがとう。」と答えてお辞儀をし、亡太郎が「ありがとうよ。」と述べたから、これにより亡太郎と控訴人との間に、口頭又は書面により、本件不動産につき亡太郎の死亡を停止条件とする死因贈与契約が締結されたと主張するが、当裁判所も亡太郎が控訴人主張の各死因贈与契約締結の意思表示をしたことはいまだこれを認めるに足りる証拠はないと判断するが、その理由は、次に訂正・付加するほか原判決理由説示(原判決七丁裏一〇行目冒頭から一一丁表八行目の「いわざるを得ない。」までの記載)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七丁裏一〇行目冒頭から八丁表六行目末尾までを次のとおり改める。

「《証拠省略》中には、控訴人の右主張に添う部分が存在する。」

2  同九丁裏四行目の「《証拠省略》」の後に「《証拠省略》」を加える。

3  同一〇丁表末行目の「また」から一〇丁裏一行目末尾までを次のとおり改める。

「更に《証拠省略》によれば、亡太郎は明治二三年生まれであり、昭和四八年六月ころ以降病臥していたが、老衰と大腸カタルのため前示のとおり昭和四八年一二月五日死亡したことが認められる。」

4  同一一丁表一行目の「沿う」とあるのを「添う」と改める。

5  同一一丁表七行目の「主張は、」の次に「当審において新たに提出されたものを含め、」を加える。

(三)  そうすれば、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却すべきである。

二  被控訴人一郎の反訴請求について

(一)  民訴法三八二条一項の規定は、控訴審において本訴の請求とその基礎を異にし、これと関連する争点につき第一審で審判されていない別個の新たな請求を反訴として提起する場合にのみ適用があり、反訴が本訴の請求とその基礎を同じくし、これに関連する争点につき第一審で審判されているときは、相手方から審級の利益を奪うなど特段の事情のない限り、控訴審でも、その提起につき相手方の同意を要しないというべきである。けだし、本訴の請求については、請求の基礎に変更のない限り控訴審においても、相手方の同意を要しないで、その変更がなされ得ることを考えると、前示限度においては、反訴についても、控訴審における提起を許容されるのが相当だからである。

これを本件についてみるに第一審において、控訴人は本件不動産につき亡太郎との間の死因贈与契約の存在に基づきその所有権を取得したとし、亡太郎の相続人たる被控訴人らに対し、うち農地である別紙第一物件目録(一)ないし(四一)の土地につき農地法に基づく許可手続の履行請求権を有する旨を主張し、別紙第二物件目録(一)ないし(二二)の不動産につき控訴人に所有権が存在する旨を主張し、被控訴人一郎はこれを争い、亡太郎の相続人たる自己にも所有権(共有)があるとしたところ、被控訴人一郎は右不動産の一部である反訴不動産につき、相続を原因としてなされた控訴人単独所有名義の所有権移転登記を、被控訴人一郎ら別紙共有者目録記載の五名がこれを相続取得したことに基づく更正登記手続の履行請求の反訴を提起したのであるが、このような反訴は本訴の請求と基礎を同じくし、これに関連する争点につきすでに一審で争点として審判されており、その控訴審における反訴提起が控訴人をして審級の利益を失う不利益を与えるなど特段の事情の存在することが認められないから、右反訴の提起については控訴人の同意を要しないと解するのが相当である。なお、控訴人はその主張にかかる遺言無効確認請求事件の確定判決によって別紙共有者目録記載の五名が反訴不動産につき持分各五分の一の割合で相続取得したことについてまで既判力をもつものではないと主張し、所論はもとより正当であるが、それによって右反訴の提起を妨げる事由となるいわれはない。

控訴人は控訴人の寄与分の主張につき審級の利益を奪われる旨主張するが、反訴不動産につき被控訴人一郎の請求が認容され別紙共有者目録記載の五名が各五分の一の割合による持分を有する旨の更正登記がされたとしても、それは法定相続分による相続がされたことを不動産登記簿上に示すにとどまり、右五名の間において更に反訴不動産におき遺産分割の協議、調停又は審判によってこれを分割し、最終的な権利の帰属が定められるのであるため、もし控訴人において寄与分があるとすれば、その段階で主張することができるのであるから、所論は本件反訴の提起を不適法とする理由となるものではない。

(二)  反訴不動産がいずれも、もと亡太郎の所有であったこと、亡太郎が昭和四八年一二月五日死亡したこと、いずれも亡太郎の子である別紙共有者目録記載の五名がその共同相続人であることは当事者間に争いがない。

したがって、控訴人主張の死因贈与の存在が認められず、他に特段の主張・立証のない本件においては、右五名が法定相続分である各持分五分の一の割合により反訴不動産を相続取得した、というべきである。

《証拠省略》によれば、控訴人は別紙第一物件目録記載(一)、(三)ないし(一四)、(一六)ないし(三三)の不動産及び別紙第二物件目録記載(一)ないし(一〇)、(二二)の不動産につき、甲府地方法務局吉田出張所昭和四九年一月九日受付第一五八号・昭和四八年一二月五日相続を原因とする所有権移転登記を、別紙第二物件目録記載(一一)ないし(二〇)の不動産につき、前記出張所昭和四九年一月一七日受付第二〇三号・前同を原因とする所有権移転登記を、別紙第二物件目録(二一)記載の不動産につき、前記出張所昭和四九年一月九日受付第一五九号・所有権保存登記をそれぞれ経由していることが認められる。

そうすると、被控訴人一郎は、反訴不動産についての共有持分五分の一に基づき、その妨害排除として、他の共有者の関係については民法二五二条但書所定の保存行為として、控訴人に対し、右各登記を別紙共有者目録記載の五名の持分の割合を各五分の一とする更正登記手続請求権があるというべきであるから、被控訴人一郎の本件反訴請求は理由がある。

三  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、また被控訴人一郎の反訴は理由があるからこれを認容することとし、控訴費用及び反訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 磯部喬 大塚一郎)

〈以下省略〉

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